[PR] 滑り止め 作家の芸術感:「めんめ」の版画、羽田智千代の木版画の世界

作家の芸術感

作家ので芸術感のわかる記述 その1

私の中で遊ぶ子どもの心………羽田智千代

【山村冬系譜】 

 山村冬系譜「これは青具峠から見た景色ですか。」この版画を見てくれた何人もから聞かれたことばだ。
  ところが当の本人とっては、これ程答えに窮する質問はない。
  私の風景版画は特定の景色を写生したものではないからである。いわば私が創った風景なのである。つまり私の心象風景である。私も時々あちこちに写 生にも出掛けるし、写真にも収めて来る。でもそれは飽くまで絵を創るための資料でしかない。そうして集めた資料が、やがて私の中にイメージを拡げながら、組み合わされたり、新たに創り出されたりして、次第に私の風景として板面 に姿を現し始める。更に幾多の紆余曲折を経て、漸くできあがる。できあがった風景は、その時の私がいちばん美しいと考え、こんな風景を観たいと願っているものだと信じている。



作家の芸術感のわかる記述 その2

【鳥人間の誕生ーめんめ、めんめ】

 kao.jpgわが家のイチイの生垣が、何年も手入れもされず伸び放題なのが気になっていた。我々が散髪した後の心地よさを思いながら、生垣の刈り込みをやった。切り落とされた太い枝を片付けようと手にとった瞬間、"お前だって自由に思う存分伸びかかったろうに…"と、物悲しい気持ちにおそわれた。そう思ってみると、その太枝がワナワナと身を震わして、何かを訴えているように感じる。版木に黒墨で、この思いを直描きにし、彫りかかった時に、孫娘が二階のアトリエに入って来た。二才ちょっとの、この孫娘は、目を輝かせて、「おじいちゃん、うんまく、ちゅくったね。めんめ、めんめ…。」と言いながら、やや変形して描いた作品"鎮魂歌"の切り木口の年輪を指さした。彼女が暫く賑やかに遊んで階下に去って行った後、一人静かにこの彫り始めたばかりの作品を、じっと見つめていた。彼女の言った「めんめ、めんめ」は、私に重大なことを教えていることに気づいた。"年輪の目で表せば、樹の痛みを、もっと、もっと力強く、に表情豊かに訴えることができるんだ"とー。



作家の芸術感のわかる記述 その3

【子供たちに教えられて】

 ある友人が、「おまえ、よく種切れにならないだ」と気遣ってくれた。私自身も時々、よくぞ種切れにならぬ ものだ、と驚くことがある。でも、今のところどうやら種切れを起こさずに過ぎている。その秘密は、子供たちとの関わりにあると思っている。

  スケート靴の片方を、刃の方から描き出した7歳の男の子。しっかりとした筆使いで、だんだんに靴の上の方へ描き進め、片方のスケート靴を描き上げたところで、「プーッ」と一息入れ、安堵の様子。「スケート買って貰ったんだね」との問いかけに、「うん」。スケートを買ってもらった喜びそのものがテーマで、この子の絵はここで出来上がったのだ。