[PR] 滑り止め 山岳博物館企画展へ対して:「めんめ」の版画、羽田智千代の木版画の世界

山岳博物館企画展へ対して

大町山岳博物館企画展時の批評

ユーモアと人間愛 金田国武

 公募展での受賞作が大へんすばらしいものであっても、同一作者の全く傾向の違う作品や、力を抜いた売絵に接したとき、「一体この作者の芸術感はどうなっているのだろうか…」と思われ、素晴らしい受賞作も急に色あせてしまうことがある。その点羽田智千代さんの作品はどんな小品でも時空を超えた鮮血が正確に脈打ち、一貫として全人格がキラキラ輝いている。

 羽田さんは「大町みずえ会」で40年以上子供たちの絵や版画をみてきたが、「教えることより教えられることの方が多いですよ。」とはにかみながら言う。ある時期、子供たちの絵の素晴らしさに自信をなくし、数年絵筆を断ったこともあったという。

 またその時分郡外の小学校でよその組の美術の時間を受け持っていたが、ある時子供たちにつくらせた花瓶の中で、ゆがんではいても個性的な作品を「大へんよくできた」とほめてやったそうですか、次週その教室へ行ってみると、その作品がどこにも無い。不思議に思って聞いてみると、担任の先生が、「こんなにゆがんでいては、みっともないぞー」と作り直させたという。この考えの違いの中に、羽田芸術の神髄がひそんでいるのではなかろうか。

  羽田さんは昭和四十年代からモノクロ版画の単純幽遠な美にひかれ墨一色で心象風景を追求し続けてきたが、地域活動にも積極的な羽田さんだから、その目はおのずと社会現象へ向きに公害や営利主義の渦巻く世紀末のなかから、芸術的アイロニーを通 して二十一世紀へ明るい橋渡しをしようとする。
鳥や虫の視点からユーモアをもって表現しているのは、版画羽田智千代さんのあたたかい人間愛のあらわれにほかならない。

(きんた くにたけ、日本現代詩人会会員)

大町市立大町山岳博物館 機関誌「山と博物館」 第44巻 第9号 1999年9月25日 より