日本板画院展出品作への評

「ささえているよ」への評       執筆者/高山 淳 氏

面白い題名である。大きな蟹が、泡を吹かしながらかがみ込んでいる。 全体の黒い塊のフォルムも面 白いし、黒の色彩もおもしろい。 大きな二つの目が下方を向いて、片一方の目が大地にくっ付いている。 目で体を支えているような感じが面 白い。

上方には、この蟹の後ろの脚にしがみついた鳥の子供のようなものが見える。 この鳥の子供のような形は昨年の作品にも出てきた。 上方に星のような、太陽のようなものが見える。 下方は水底かと思うと、山のようなフォルムに見える。 自由なイマジネーションである。

ある小説家の言葉に、「自分の片目を放り出して回りを見る」という言葉がある。 この目の表現には独特のリアリティがあって、この画家の表現に対するある考え方を示しているようだ。

また、蟹の形自体にもリアリティがあると同時に、全体に浮いているような独特のフォルム、八本の脚の繊細な表情、あるいは黒い大きな体の中に泡がグレーの色彩 として、 あるいはそのリズムとして入ってくるのも面白い。

ささえているよ